復讐

「詩人は言葉を大事にする、というのは一つの通念にすぎないのであって、果たして現実の詩人が、現実に言葉を大事にしているかどうか、そんなことは誰にも分からない。むしろ言葉を軽く扱ったために、その報いを彼らは受けているのではなかろうか、と私は疑うものである。
 身も蓋もないことを言ってしまえば、本物の詩人でない詩人は、さっさと詩なんぞ書くのは止めてしまったほうが賢明である、ということだ。私たちは、それほど多くの詩人を必要としていないのである」(澁澤龍彦『詩を殺すということ』より)


詩人は言葉に復讐されているのではないか、と澁澤龍彦は言った。
日本語に復讐するのだと詩人金時鐘は言った。
言葉に復讐するのか、されるのか。自分を形作ってきた言葉を乗り越えるのか、そのまま言葉に飼い馴らされるのか。言葉に飼い馴らされ、世界に飼い馴らされる。世界に飼い馴らされていることに気づきもしていない言葉は、窮屈で息苦しい。そんな言葉にいかに復讐するか?