今を生きる言葉を探して、途方に暮れつつ、ようよう原稿を書き終える。22枚。
辻征夫の詩を読む。
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「蟻の涙」
どこか遠くにいるだれでもいいだれかではなく
かずおおくの若いひとたちのなかの
任意のひとでもなく
この世界のひとりしかいない
いまこのページを読んでいる
あなたがいちばんききたい言葉はなんだろうか
人間と呼ばれる数十億のなかの
あなたが知らないどこかのだれかではなく
いまこの詩を書きはじめて題名のわきに
漢字三字の名を記したぼくは
たとえばこういう言葉をききたいと思う
きみがどんなに悪人であり俗物であっても
きみのなかに残っているにちがいない
ちいさな無垢をわたくしは信ずる
それがたとえ蟻の涙ほどのちいささであっても
それがあるかぎりきみはあるとき
たちあがることができる
世界はきみが荒れすさんでいるときも
きみを信じている
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