百人の死は悲劇だが、百万人の死は統計にすぎない、とアイヒマンは言った。


金石範は、短編小説の中でこう書く。

「『……狭い島の中で三人に一人が、それも八万人も死んだでしょう。(中略)いまでこそ八万だとか数字の上でのことでいうけれど、あたしには限りない一人一人としてそれがはっきり見えてくるのよ』」
(「夜」より。 済州4・3から日本に逃れてきた蘭女という若い母親の言葉)


「……暗い川面に裸の死体が一つ浮んでいた。人間は一人ずつ死んで、死体は一つでないといけないと思う。ふるさとでは道ばたの石ころみたいに見馴れた死体だった。天地が人間の死骸で埋まった。無造作に殺されて、山と積まれた死体を探しにくるものもいなかった……」
(「夜の声」より。 済州4・3から逃れてきた男の、橋上での胸中の声)