語り物
連想と妄想は音が重なり合う瞬間にホップステップジャンプでワープして、気がつけば、死者を乗せて走る銀河鉄道はこの世のすべての理不尽な死者の森を貫いて走り、理不尽な死者はあまりに多いから、世界は森で埋め尽くされている、満洲の丸太のような、死者…
二十世紀を駆けぬけて 敗戦後も間もない日、焼けなかった京都から故郷へ立ち戻った私は、広島の町を一望に見おろす比治山に登って、国見におよんだ。 焼き尽くされて灰燼と化し、七つの河だけが陰刻となった町の後は荒涼として奇妙に静謐、鬼気迫る惨景であ…
2024年の最初の一冊は、コンラッド『闇の奥』(黒原敏行訳 光文社文庫)。読みなおし。コッポラの『地獄の黙示録』のイメージが強すぎて、それを振り払いながら、 若き頃にコンゴ川をさかのぼっていった老船乗りマーロウが、闇の中で見て聞いて経験したこと…
新しい世界にようこそ 人知れず無数の獣が大地を蹴って躍るとき、ひそかに世界が変わるということを、あなたは知ってる? この世の涯の密林の奥で、ほかの誰に知られることなく、この世が災厄にのまれぬよう、かがり火焚いて夜を徹して輪になって踊る歌の祭…
近代の言文一致体を作り出すために、どれほどの苦労があったことかと、 文学史において、二葉亭四迷やら、山田美妙やらのさまざまなエピソードや、 鴎外や漱石の文体について触れてきたわけであるけれど、 『「日本語」の文学が生まれた場所』の黒川さんの序…
今日、2021年12月11日は、大阪・西成 ココルームで、煤払い 詩の朗読会 ライターの社納葉子さん、ココルームの上田 假奈代さんと三人で、釜ヶ崎芸術大学の皆さんに囲まれて、年末に人生の煤払いをしようということで、あれこれ語り合いました。 そのなかで読…
『初期出版界と古浄瑠璃』(柏崎順子)という論文を読んでいる。 まず基礎知識。 ◆古浄瑠璃の展開について。 ①語り物の時代 街道筋で浄瑠璃が語られていた時期 ②慶長・元和期 操り浄瑠璃成立の時期 ③寛永期(正保・慶安) 正本の刊行が開始される時期 ④承応…
今日は、ピヨピヨ団とともに、大阪は八尾の恩智、茶吉庵を訪ねた。 HPには、「ほんまもん」のアートが集まる 築250年の古民家、とある。https://chakichian.co.jp/ 19代目当主の萩原さんから恩智という土地の歴史(話は物部氏の頃からの反骨の物語としてはじ…
なぜ「中動態」の本を読むのかと言えば、 「私」という「一人称」を森崎和江の問いがずっと、私の胸の奥深いところに刺さっているから。 妊娠出産をとおして思想的辺境を生きました。何よりもまず、一人称の不完全さと独善に苦しみました。(中略) ことばと…
そもそもは「説経」とは、仏教の「唱導(仏法を説いて衆生を導く語りもの)」を源とする。 唱導師による「説経」。これは、関山和夫によれば、「節付説教」の意。 単なる説教(法話)ではなく、語りのパフォーマンスになっているということ。 これは、たとえ…
半年ぶりの陸前高田。 官製 津波伝承館からまっすぐ海の方へ。 橋を渡って防潮堤へ。 (この橋は、防潮堤と町を切り離す橋のようでもある) 防潮堤には献花台がある。 (ここに献花するのは町の人ではなく、外からやってきた人のようでもある) 防潮堤が視界…
5月12日 野生会議99 つながるゼミナール 「山伏の目で読んで語る宮沢賢治」@西荻窪・忘日舎のゲストに来てくださった編集者アサノタカオさんとのfacebook上でのやりとりが、とても大切なことに思われて、このブログの方にそれを記録しておく。 <アサノさん…
2019年5月11日 東京自由大学 「異界の声。常世の歌」第二回 「流浪のうたびと、 ~アフリカの吟遊詩人、さまよい安寿」 <話の前置き> 説経節「山椒太夫」より、弟厨子王の行方の自白を迫られた安寿の拷問死の場面 十二格(十二段)の登梯(はしご)にから…
縁あって、宗像市多禮の公民館で、『あやとりの記』の世界、そして『西南役伝説』より「六道御前」を、祭文語り八太夫を語り手に、私は狂言回しの役割で、上演することとなったのです。ここ多禮には、人の死を、生からの地続きの自然の成り行きなのだと受け…
国民国家を草の根から支えた「声」としての「浪花節」(兵藤裕己)。 「近世の封建国家の忠孝のモラル」から「近代の国民国家の一元的な忠孝のモラル」への「変換装置」となったのが、「大衆社会」に流通し浸透していく物語だったという認識。※1 桃中軒雲衛…
まずは、章扉に置かれたこの言葉。噛み締めるべし。 アボリジニのあらゆる情報システムにおいて、知識とは特定の場所と人々にかかわっています。別の言い方をすれば、アボリジニの知識体系で最も重要なのは、知識を普遍化しないという点です。知識が特定化さ…
これを、未開から文明へという進化論的な発想でとらえれば、西欧近代の思考の枠のなかで、西欧近代の外の世界を説明することにしかならないだろう。 国家をもつ社会が文明の到達点か? まさか。 「未だに野蛮なままにある人々をそうした場に留めているものは…
「「君主であれ専制王であれ国家元首であれ、権力者は常に語る者であるばかりでなく、正統なる言葉の唯一の源泉なのだ」 「それは命令(戒律)と呼ばれ、命令を実行する者の服従以外のなにも望まない」「あらゆる権力奪取はまた言葉の獲得でもある」 「国家…
「権力行使の手段をもたぬ権力とは一体何なのか?」 「首長に権威がないのなら、首長は何によって定義されるのか?」 1.首長は「平和をもたらす者」である。 (戦時にのみ強制力をもつ権力が出現する。戦時首長)2.首長は自分の財物において物惜しみをし…
いや、イタコが語るのを聞いたわけではないんです。 1931年に採録されたテクストをもとに、「声」の表現者である井上秀美さんに、「お岩木様一代記」を演じてもらった。 これが実に面白かった。 今回「お岩木様一代記」を口演した井上秀美こと井上イダコ…
「こんなに困難盡し終へでも/母ど致するものもなし/年は7つの年に/頃は四月の春の頃」(3つの年から、7つまで、「津軽三十三観音、六十余州/日本全国、西国三十三観音みなかげで」旅したわけです。この放浪は、まるでスサノオの放浪のようでもあります。…
1.三途の川の橋のところで南無大姉様(神)に歌掛け(「あぶらおんけと三遍もうだをかげたるなれば」)、油売りがやってくる!「この油紙を張って水を汲め」あぶらおんけのおまじまいが、あぶらうりを呼び出す、という声の力! 2.「咽せ咽せ行て見れば」…
「太鼓三味線の音がする/あれの音ではないかと/急いで行て見れば/丹後の国の奥の山で/さんそう太夫が先ぎだちして/天の明神様弟のふりやいが悪い為に/石のから戸に身体をおかくれ致した時分に/さんそう太夫が太鼓三味線で/つゆのお神楽あげでら音で…
●おさだを憐れんだ村の長者が、からの国の加藤左衛門を紹介してくれる。 (からとは唐なのか? 加賀なのか?) (加藤左衛門とは、五大説経の一つ「刈萱」の主人公の父の名前ではないか。近代以前、誰もが知っていた説経系の物語は、相互に溶け合っているよ…
●母はおさだ、加賀の生まれ。 (加賀からの移民という、当時の人の流れを想起させる) ●兄はつそう丸 …(説経「山椒太夫」から来た名前だろう。在地の神が物語を乗っ取る) ●姉はおふじ、 ●最後があんじゅが姫。 (安寿姫でもあり、庵主が姫でもある。母さだ…
『お岩木様一代記』(坂口昌明編 津軽書房)より 地域の鎮守神の崇高さを称える『神道集』の感覚は、現代の私たちが『お岩木様一代記』を理解するのに大切な、鍵のひとつと思われます。 (『神道集』は)はじめその考え方が比叡山系の寺院周辺から流れ出した…
<『お岩木様一代記』についての柳田國男の感想> ・語り手の文作の多いこと ・是非とも守るべき伝承の少なかったこと ・之に加ふるに忘却と誤解あり ・聴手の曲従もしくは容認 ・新しい文化の意識せざる影響 ・ハンカチとカバンは殊に驚く ・現代文学の印象…
山形の祭文語りにまつわる記憶。 明治末年 越後頚城郡春日野村正善寺 北条時宗氏による。 「私は幼い頃、丈余の雪に閉ざされた旧正月に度々この村の長格の家に連れられて二、三日を過ごした。その村で雪の正月を楽しむ祭文語りを聞いた。大きな家で十畳二間…
近世寛永頃に上方において山伏祭文から派生した「歌祭文」、 江戸の山伏祭文とかかわりの深い「説経祭文」、 その成立を貝祭文から推測するというアプローチ。 <古代の祭文から貝祭文への流れ>1・そもそも祭文のはじまりは古代、「仏教・神道・陰陽道・儒…
幕末に薩摩若太夫系統の説経祭文が多摩や埼玉に広がるにあたって、神楽師(=陰陽師)ネットワークが大きな役割を果した。それはまずは、 1.薩摩若太夫門下になるということ ・5代目若太夫(板橋・諏訪仙之助)、6代目若太夫(多摩郡二宮・古谷平五郎)…